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平成27年度卒業証書・学位記授与式学長告辞を公開しました。

学長告辞

 本日、ご来賓ならびに関係各位のご臨席のもと、平成27年度名寄市立大学・名寄市立短期大学部の卒業式・学位記授与式を挙行できますことは、大きな喜びであります。保健福祉学部・栄養学科38名、看護学科51名、社会福祉学科48名、短期大学部児童学科48名のみなさま、そしてご父兄のみなさま、おめでとうございます。名寄市立大学を代表し、学長として一言お祝いを申し上げます。

 2011年3月11日から5年と少し過ぎました。本日ここにご参加のみなさんは今、何を思うのでしょう。新聞に「帰還」という文字を見るたびに、私個人の感じ方かもしれませんが、ぎくっとします。「帰還困難」の「帰還」とは、戦地や軍隊から故郷に帰るという意味もあるからです。自然の不安定さは、人びとが歴史的に受け入れてきたことでもあります。しかし、「帰還困難」は、自然ではなく、わたしたちが作り上げてきた社会の帰結です。その責任からはだれも逃れられません。何らかのケアをしたからといって、その責任を免れるものでもなく、被災の後遺症を抱えている人びとの問題解決にも、遠いものかもしれません、しかし、ケアは必要不可欠であることは言うまでもありません。

 そのケアという言葉ですが、さまざまな領域で議論されてきています。哲学、倫理学、教育学、社会学、社会政策学、文化人類学、政治学、さらに医学、看護学、介護学、社会福祉学、保育学、そして環境科学まで、実に多様なレベルで、あるいはまた、それぞれの職業の専門性にかかわって語られてきています。その中で、ケアの議論の中心は、ケアを「受ける」「与える」の二者関係が基本にあるとしても、今や世界の議論はそれにとどまらず、ケアの意味が新しい装いを帯びつつ、社会の持続的再生産だけでなく、さらに自然や地球環境の持続性までを視野に入れた、大きな議論としても展開されようとしています。

 それは、ある意味必然です。なぜなら、ケアはまず、だれでもその生涯において支援を必要とする、とくにフラジルで(脆弱で)ヴァルナブルな(傷つきやすい)状態にある場合に受けるものであり、生命の、社会の再生産維持に不可欠なものとして、社会が必要とするものとして生まれてきた制度でもあります。また、ケアという言葉がもともと持つ、他者に対する心配、気遣い、世話といった意味合いは、わたしたち自身の持続性への欲求と共に、当然人間以外のケアを必要とする対象にも注がれていきます。そして、社会保障制度やエネルギー政策、環境政策などのありようを通じて、最後には政治の課題に結びついていきます。そういう意味で、ケアは、近代や現代が生み出してきた精神や産物や環境に対する、オルタナティヴな、すなわちそれらに対抗する批判論理を内包しています。困難な展望を切り開く倫理を持っています。

 これからみなさんは、管理栄養士として、看護師や保健師として、社会福祉士として、保育士などとして、あるいはこれらの専門職からはいくぶん距離のある職業にも就くことでしょう。その旅立ちの日、学長という役割を与えられた一人の人間として、何をみなさんに届けるべきかと思ったとき、このようにケアをとらえていくことは、たとえみなさんが特定の専門職の名称がない職業に就くとしても、卒業生のすべてのみなさんに、これなら、本学にふさわしいメッセージとして受け止めていただけるのでは、と考えたからであります。もちろん私は、卒業生のみなさんには、とくに日々の生活において、さまざまな困難な状況に置かれている人びとに共感し、理解し、少なくとも「想像しようとしてみる」人間であってほしいと思っています。またそれだけでなく、仕事などの失敗にめげないしたたかさ、ユーモアのセンス、そして夢をもった人間であってほしいと思っています。これは、とくに対人援助専門職の持続性、いわゆるバーンアウトを防ぐという点でも必要なことでしょう。

 本学は1960年、暗い宇宙の中の青い地球のように、いわば偶然の重なりあいで誕生し、多くの先人たちによって育てられここまで来ました。人口3万人の小さなまちが大学を抱えるという、まさに奇跡のような56年だったと思います。みなさんの歩みは、その連綿と続いてきた本学の苦闘の歴史の延長上にあり、卒業生総数8172名の最後の隊列に位置づくものであります。みなさんは、北の寒天(寒い空)に小さくともきらりと光る星のような大学、その歴史を築いてきた一員です。この道北・名寄に潤いを与え、まちの活性化を担ってきた一員でもあります。そして今、みなさんは、これまでのみなさんの個人的経験をはるかに超える、広い世界に飛び立とうとしています。

 今、本学は新たな飛躍を遂げようとしています。この4月から、新たな4年制の社会保育学科が発足し、また本館と新館とに分離されている図書館は、講堂を備えた新図書館棟としてすでに形を見せ始めています。さらに厚生施設の充実を含んだ新棟建設の計画もあります。卒業生のみなさんには、それらの完成も見ずして卒業させることとなり、まことに申し訳なく思っています。しかし、卒業されるみなさんをはじめ、これまでの先輩や関係者・市民のおかげで、この大学間競争が厳しい時代にもかかわらず、本学は、わたしたちの努力次第で、十分生き抜いていく基盤ができつつあるところに来ました。あらためて関係者のみなさまにも深く感謝申し上げます。

 わたしたちの目標は、卒業生のだれもが、あの「小さくてもきらりと光る大学、名寄市立大学を卒業したよ」と、誇りを持って仕事に就き、「ケアの未来をひらく」一員となって活躍していただくことです。みなさん方の活躍が、さらなる本学の社会的評価の高まりへとつながっていくような、いわば在学生・教職員と卒業生を結ぶ好循環の確立を期待しています。それがまた、地域への最大の貢献につながることになるでしょう。

 最後に、これは卒業式のたびに引用させていただいているものですが、藤沢周平の「梅薫る」という短編の冒頭の文章で、告辞を締めくくりたいと思います。「蕾は大きくふくらんでいる。はち切れんばかりだった。だが丹念にのぞきこんでも、ほころびはじめたのは見あたらなかった。花は、そこまで来ている春を鋭敏に感じとりながら、まだ残る冬の気配を警戒しているようにみえた」。見事な、今の、この道北の地にふさわしい、ぴったりとした季節感の描き方だと思います。でも今日この日は、これにもう少し付け加えたいと思います。壇上から見下ろすみなさんはしかし、もうすでにほころびはじめ、まぶしいような輝きを放って咲き始めている。

 卒業生のみなさんの今後のご活躍を期待しつつ、卒業式告辞といたします。

平成28年3月17日

名寄市立大学・名寄市立短期大学部学長 青木 紀

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