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平成26年度 卒業証書・学位記授与式学長告辞

学長

 本日、ご来賓ならびに関係各位のご臨席のもと、平成26年度名寄市立大学・名寄市立短期大学部の卒業式・学位記授与式を挙行できますことは、大きな喜びであります。保健福祉学部・栄養学科40名、看護学科50名、社会福祉学科47名、短期大学部児童学科48名のみなさま、そしてご父兄のみなさま、おめでとうございます。名寄市立大学を代表し、学長としてお祝いを申し上げます。

 2011年3月11日から4年と少し過ぎました。保健福祉学部を卒業される多くのみなさんは、その「3.11」の年に入学されました。2年後に入学された短期大学部の卒業生を含め、本日参加のみなさんは今、何を思うのでしょう。肉親を失い、故郷を追われ、捨てることを決断した人びと。その「心の折り合い」を思うたびに、苦しくなります。また目を南に向ければ、これまでの歴史の上にさらに重ねられようとしている苦難、普天間から辺野古への基地移設に反対する沖縄の人びとの心情、これらを想像すると、いったいわたしたちは、彼らに「心の折り合い」をどうつけさせようというのか、どうしようもないような苛立ちを覚えます。

 自然の不安定さは、人々が歴史的に受け入れてきたことでもあります。しかし、その自然の循環から切り離された原発という装置に対する曖昧な態度、戦後70年たっても変わらない沖縄基地、そしていよいよ危険水域に入ろうとする日本の政治。これらの新たなリスクを伴った現代日本という社会は、自然ではなく、わたしたちが作り上げてきたものです。その帰結の責任からはだれも逃れられません。わたしたちは再び、理不尽さの中に「心の折り合い」を付けることを余儀なくされるかもしれません。

 ところで、本学がキャッチフレーズとしている「ケアの未来」という場合の「ケア」は、様々な領域で議論されてきています。哲学、倫理学、教育学、社会学、政治学、さらに看護学、社会福祉学、そして環境科学まで、実に多様なレベルで、あるいはまたその職業の専門性にかかわって語られてきています。その中で、ケアの議論の中心は、ケアを「受ける」「与える」の二者関係が基本にあるとしても、今や世界の議論はそれにとどまらず、ケアの意味が新しい装いを帯びつつ、社会の持続的再生産だけでなく、さらに自然や地球環境の持続性までを視野に入れた議論として展開されようとしています。

 それは、ある意味必然です。なぜなら、ケアはまず、だれでもその生涯において支援を必要とする、とくにフラジルで(脆弱で)ヴァルナブルな(傷つきやすい)状態にある場合に受けるものであり、生命の、社会の再生産維持に不可欠なものとして、社会が必要として生まれてきた制度でもあります。また、ケアという言葉がもともと持つ、他者に対する心配、気遣い、世話といった意味合いは、わたしたち自身の持続性への欲求と共に、当然人間以外のケアを必要とする対象にも注がれていきます。それらは、生物の多様性や持続性といった議論に結びついていきます。そして、現実から迫られる、わたしたち一人ひとり「心の折り合い」の葛藤を通じて、最後には政治の課題として結びついていくからです。そういう意味で、ケアは、近代や現代が生み出してきた精神や産物や環境に対するオルタナティヴな、すなわちそれらに対抗する批判論理を内包しています。

 これからみなさんは、管理栄養士として、看護師や保健師として、社会福祉士として、保育士などとして、あるいはこれらの専門職からはいくぶん距離のある職業にも就くことでしょう。その旅立ちの日、学長という役割を与えられた一人の人間として、何をみなさんに届けるべきかと思ったとき、このようにケアをとらえていくことは、たとえみなさんが特定の専門職の名称がない職業に就くとしても、卒業生のすべてのみなさんに、これならメッセージとして受け止めていただけるのでは、と考えたからであります。もちろん私は、卒業生のみなさんには、とくに困難な状況に置かれている人びとの抱える「心の折り合い」を想像できる、それが難しいことであれば、少なくとも「想像しようとしてみる」人間であってほしいと思っています。

 本学は1960年、暗い宇宙の中の青い地球のように、いわば偶然の重なりあいで誕生し、多くの先人たちによって育てられここまで来ました。人口3万人の小さなまちが大学を抱えるという、まさに奇跡のような55年だったと思います。みなさんの歩みは、その連綿と続いてきた本学の苦闘の歴史の延長上にあり、卒業生総数7987名の最後の隊列に位置づくものであります。北の寒天(寒い空)に小さくともきらりと光る星のような大学、その歴史を築いてきた一員です。この道北・名寄に潤いを与え、まちの活性化を担ってきた一員でもあります。そして今、みなさんは、これまでのみなさんの個人的経験をはるかに超える、広い世界に飛び立とうとしています。

 今、本学は新たな飛躍を遂げようとしています。本学の伝統を長く担い、引き継いできた短期大学部児童学科は、来年4月、新たな4年制の「社会保育学科」として発展することが正式に決定されました。また本館と新館とに分離されている図書館は、講堂を備えた新図書館としてまもなく工事が始まることになりました。卒業生のみなさんには、その開始も完成も見ずして卒業させることとなり、まことに申し訳なく思っています。しかし、卒業されるみなさんたちをはじめ、これまでの先輩や関係者・市民のおかげで、この大学間競争が厳しい時代にもかかわらず、本学は、わたしたちの努力次第で、十分生き抜いていく基盤ができつつあるところに来ました。あらためてみなさまに深く感謝申し上げます。

 わたしたちの目標は、卒業生のだれもが、あの「小さくてもきらりと光る大学、名寄市立大学を卒業したよ」と、誇りを持って仕事に就き、「ケアの未来をひらく」一員となって活躍していただくことです。みなさん方の活躍が、さらなる本学の社会的評価の高まりへとつながっていくような、いわば在学生・教職員と卒業生を結ぶ好循環の確立を期待しています。それがまた、地域への最大の貢献につながることになるでしょう。

 最後に、これは3年前にも引用させていただいたものですが、藤沢周平の「梅薫る」という短編の冒頭の文章で、告辞を締めくくりたいと思います。「蕾は大きくふくらんでいる。はち切れんばかりだった。だが丹念にのぞきこんでも、ほころびはじめたのは見あたらなかった。花は、そこまで来ている春を鋭敏に感じとりながら、まだ残る冬の気配を警戒しているようにみえた」。見事な、今の、この道北の地にふさわしい、ぴったりとした季節感の描き方だと思います。でも今日この日は、これにもう少し付け加えたいと思います。壇上から見下ろすみなさんはしかし、もうすでにほころびはじめ、まぶしいような輝きを放って咲き始めていると。

卒業生のみなさんの今後のご活躍を期待しつつ、卒業式告辞といたします。

平成27年3月17日

名寄市立大学・名寄市立短期大学部 学長 青木 紀

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