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コラム@N­CU - ­第3回 『目に見える価値観と見えない価値観について』」 加藤 隆

私たちは目に見える世界に圧倒的に囲まれながら、本当のところは目に見えないことに左右されて生きている。企業は製品を売っているようで、その本質では信用を売っているとも言える。あそこの製品は間違いないという信用に裏打ちされているから、その製品は売れる。この原稿を書いている最中に、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲンの排ガス規制の不正が報道された。検査のときだけ排ガス低減機能を作動させるソフトウエアを搭載し、通常走行時には基準値の最大40倍の有害物質を排出していたという。おそらく、会社への信頼はガタ落ちになるだろうし、自動車販売にも大きな影響が出ると思われる。民事制裁金は最大180億ドル(約2兆1000億円)に上る可能性とのことだ。

或いは、私たちは巨大な飛行機に平気で乗っているけれど、別に自分が整備士のように全てを点検したから搭乗するのではない。その航空会社そのものへの信頼、機長や整備士の技能を信用しているから身を任せることができるのだ。だから、もしもの話だが、機長が疲れてフラフラと搭乗口を歩いて行くのを見たりしたら、自分の搭乗をキャンセルするに違いない。信頼の根拠が揺らぐからである。レストランの食事を事前に毒見させないし、病院での注射を事前に検査したりもしない。こうして見てくると、人間は目に見えるものに圧倒的に囲まれてはいるが、本質的には目に見えないことに左右されて生きているのだ。それは、信頼であり、愛情であり、期待であり、希望である。この目に見える世界の価値観と、目に見えない価値観の順番を間違えると、どうもおかしくなるのではないだろうか。

最近、札幌にある有名国立大学の先生と話す機会があった。先生が言うには、年々学生が多様化してきており、学習支援や健康相談の支援や配慮が年々必要になってきている現状にあること、できるだけ要支援学生を早期に発見して支援することの必要性を強調していた。そして、その後で付け加えて言ったことが大変に印象的だった。あまり悩みに付き合ってこなかった学生、悩んだことがなかった学生が大学に入ってきて、結果的に、自分で解決する経験が育っていないと言っていたのである。簡単にいうと、学習力は身に付いているかもしれないが、生活力は風前の…なのだ。

今日、教育界ではレジリエンスということが至るところで叫ばれている。「精神的回復力」「抵抗力」「復元力」「耐久力」などとも訳される心理学用語である。困難に直面した時に、自分で気持ちなり状況を復元することがうまく育っていない傾向が顕著になっていることから、最近特に言われている気がする。先ほどの生活力が育っていないこととも繋がるかもしれない。学校の授業でも、部活や友人との遊びでも、その人の心の底に「自分はだめな人間だ」「またまた失敗の連続」「誰も信用できない」などという言葉がいつも流れているようならば黄色信号かもしれない。そうではなく、「自分はこれまでも乗り切ってきたし、この困難も絶対に大丈夫」「自分を支えてくれている家族や友達がいるから大丈夫」「なんとかなるさ」と思えるなら、レジリエンスも育ちます。

もう一度、この目に見える世界の価値観(その大半は数値で表される)と、目に見えない価値観の順番を考え、何が人間の生きる本質なのか、本当の力になるのかを考えてもらえれば幸いです。

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