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名寄に来て思うこと(小林 宏)

冬の風景

 名寄に来て三年目となった。
 本学の教員公募を見て「名寄?」と思っている人のためにも、名寄という街での生活や、兵庫県民であった私が名寄に来て思うこと等にふれておきたい。
 以前から家人とも「子育てを終え、両親への介護も一段落したらまったく知らない土地で暮らせたらいいね」と話していたが、子育ても両親の介護も一区切りを迎えた。
 そんな時に本学の教員公募を知り、応募するととんとん拍子で任用となり家内と共に移り住んだということだった(神戸の震災で建てなければならなかった二世帯住居は年の大半が「空き家」となっている)。
 名寄は旭川の北約70km、人口3万人の市で、地形は盆地をなしている。
盆地のため冬は寒く、夏は暑い(北海道では)ところだとされている。確かに冬はマイナス20℃を下回ることも多く、そんな朝は街路樹がすべて「樹氷」となり辺りにはダイヤモンドダストが舞う。しかし、盆地のため風が少なく、思ったほどには感じない。場合によれば「六甲颪(おろし)」の方が寒いのではないかとさえ思える。借りているマンションは新しく、ペア硝子の窓もさることながら断熱材が優秀なせいか、魔法瓶の中で生活しているように感じる。オール電化で蓄熱式のファンヒータが設置されているが、就寝時にファンをきって寝ても朝の室内は15℃を下回らない。年末年始に神戸の住居に戻るが、朝の室温は7℃では「どちらが寒いの?」と言いたくなる。
ただ、雪道の「歩き方」の習得にはいささか時間がかかった。「足踏みをするように歩くんだよ」という地元の方のアドバイスが身につくまで、私も家人も打ち傷が絶えなかった。
 夏は日中30℃を超えることもあるが、湿度が低いせいか本土のような蒸し暑さは感じられない。研究室や教室にもエアコンが敷設されていない。自宅のマンションにはエアコンがあるが、まだ私は一度も使ったことがない。それどころか、8月にもなると窓を開けて網戸にして寝ていると寒くて目覚める時がある。したがって、冬でも夏でも掛け布団が一枚、部屋着はパジャマ一枚で暮らせる。
 名寄の良いところの一つは小規模ながらも都市機能がそろっていることである。市街地には大手資本のスーパーとショッピングモールが二軒、地元資本のスーパーが二軒、「しまむら」や「ユニクロ」もあり、大概の役所もそろっている。
 もう一つのいいところは、車で5分も走ればそこが大自然ということである。
 5月から6月にかけてはウド、タラの芽、ワラビ、ネマガリダケのタケノコと、山菜が採り放題であり、夏から秋にかけてはヤマメ釣りが、秋にはきのこ狩りが楽しめる。
 名寄の人たち(北海道民全般がそうであるようだが)は、関西人のように「おせっかい」ではない。しかし、親切な人が多い。着任早々あちこちで「山菜採りに行きたいんですけど・・・」と言っていたら、どこからとなく「小林先生、山菜採りに行きたいんだって、まだ早いかもしれないけど、行ってみますか」とお誘いがかかり、「先生は地元の人じゃないから」と「秘密の場所」に連れていってくださる。ヤマメ釣りしかり、きのこ狩りしかりである。大いに感謝することしきりである。

アスパラガス

名寄での生活が順調に推移していることの原因は2つあると思っている。それは夫婦共々に、地元の人たちと懇意にしていただいていること、さらに長い冬場に退屈しない趣味を持てたこと、だと思う。
 名寄の冬は長い。11月から4月までと一年の半分が冬である。その冬を退屈せずに済むようさまざまな市民サークルがある。私は「北国風景画同好会『風花』」に入れてもらい、中学生以来40数年ぶりに絵筆を握った。優秀な講師の指導のお陰で何とか「さま」になるようになった。昨年4月に刊行した小編著書(「学校における心の危機対応ワークブック―13の事例から学ぶ危機管理と心のケア―」金子書房)には、挿絵として「名寄市郊外の四季」と題する4枚が掲載されている。家人はかねてより習っていた「太極拳」と野草観察の「野の花の会」に入って友人が増え、カーリング(日本選手権が行われる会場が安価で借りられる)やランチなどに誘われ、地元情報には私以上に詳しくなった。スキー場も多く、私は久方ぶりのスキーを楽しんだが、家人はスノーモービルの場内ライセンスを取得して楽しんでいる。
 夫婦そろって入会したのが「名寄地区手そば打ち愛好会」である。初心者が練習に打つのが700グラムのそばである。優に6人前はある。初心者のうちはよそ様に差し上げる訳にもいかず、夫婦で3回はそばを食べなければならない。夫婦そろって練習すればその倍を食べなければならない。練習を家人に譲っていたら、家人はご指導宜しく上達し、一昨年には段位検定初段に合格させていただき、昨年は二段を取得させていただいた。
 名寄に来て、思うことの一つは、食べ物が美味しいということだ。毛ガニやウニ、ボタンエビなどの海産物はもちろんだが、野菜や果物が美味しい。特産のアスパラガスは私の親指ほどの太さで柔らかい。関西では手に入らない絶品である。また、盆地のため夏場でも一日の寒暖差(日較差)が大きいため野菜や果物に甘みがのる。メロンもそうだが、フルーツトマトは甘み満点、文字通り「フルーツ」である。
昨夏も、家人が大量のフルーツトマトを頂いてきた。自家製のケチャップとトマトソースを作ったが、食べてしまうのがもったいないようなできばえとなった。夫婦共々料理が好きなので北海道とりわけ名寄の食材は大いに堪能している、
また、友人に送るためにトウモロコシ(こちらでは「トウキビ」と言う)農家を紹介され、もぎたてのピュアホワイトをわけていただいたが、糖度が18度だと知らされた。メロンより糖度が高い。送り先の友人達から驚嘆の声が寄せられたのは言うまでもない。
 思うことの二つ目は、上述のような自然の豊かさとともに、自然の驚異と怖さである。
最初にネマガリダケのタケノコ採りに連れて行ってもらった時に、「これ何だかわかりますか」と尋ねられた。見ると高さ2メートルほどのネマガリダケがある場所だけ押し倒されている。「熊の寝たあとですよ。けものの臭いがするでしょ。2~3日前でしょうね」と言われた時は背筋が凍る思いがした。昨夏もそば打ちの練習会場となっている公民館の敷地内に熊の足跡が見つかった。道路を隔てたトウモロコシ畑をねらって山から下りてきたらしい。あまり甘いトウモロコシも考えものかと思うと同時に、「♪ある日、森の中、熊さんに出会った・・・」という歌は北海道では歌わない方がいいなと思った。
 そんな大自然の中で、他の動物たちもたくましく生きている。少し郊外に出ると(そればかりか一昨年は本学キャンパスにも出没した)キタキツネに出くわす。夏場は目立たないが冬場の銀世界となると見つけやすいのがエゾシカだ。たくましく生きているなと思う。       
たくましさという点では名寄のカラスもたくましい。名寄のゴミ回収用のゴミ箱は鉄のメッシュで覆われている。各戸ともそうである。したがって生ゴミをあさるということができない。何を食べているのかというと、虫や昆虫など自然の獲物である。毎年9月になると「ククサン」という大型の蛾が大量発生する。カラスが空中で補食する。しかも胴体だけを上手に捕食するので、2枚の羽だけが残る。朝キャンパスに来るとあちこちに蛾の羽が散乱している。一昨年はキャンパスの芝生の下に潜む虫を食べるのに嘴を使って芝生をはがすのを見て驚いた。しかも2~3羽が協働して行うのである。あんな光景は初めて目にした。カラスは堂々とし、人間など相手にしていないかのように振る舞っている。
 最後に本学と学生のことに少し触れておこう。本学についてはこのホームページの他のページに詳しく紹介されている。短期大学部を含めても総学生数700人ほどのこぢんまりとした大学であり、アットホームな大学という言葉が最も当を得ている。
学生について、最初に驚かされたのは、まだ授業も始まっていない頃から廊下や本学構内ですれ違う見ず知らずの学生がそれぞれに「おはようございます」「こんにちは」と挨拶をくれたことだ。これは現在も続いているし、道ですれ違う見ず知らずの小学生やおじさんおばさんなどから挨拶をもらうこともある。近隣数校の高等学校のスクールカウンセラーを兼務しているが、そこでも休み時間や放課後にすれ違う高校生が挨拶をしてくれる。関西では考えられないことだ。北海道のすばらしいことの一つだと思う。
 さらに学生は純朴で、いわゆる「いい奴」「いい子」が多い。勉強も適当に頑張っている。しかし、近隣に大学が無いためか刺激も少ない。「勉強もサークル活動等ももう少し頑張ればもっといいのにな」と思う。たくましく貪欲な名寄のカラスを見習ってほしいと思うのは私だけなのだろうか。

学生風景

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